旧姓横島・極楽大作戦!!
七話


「走れ、よこちまーーっ!!」

「ブヒヒーーン!!」

 れーこを背に乗せ走り出す。

「きゃはははははははっ!!」

「パカパッパカパッ!!」

 お馬さんゴッコ、と言われているものだ。

「・・・・・よく体力が続くわね」

 疲れているのか、美神の顔色は悪い。
 で、起きたばかりのようなので寝間着姿である。

「あっ、おはようございます」

 おキヌの手にはコーヒーの入ったコップがあり、それを六道に渡す。

「おキヌちゃんありがと」

 おキヌからコーヒーを受け取った六道は、一口飲み、テーブルの上に置く。

「六道クン、起きてたの?」

「ええ」

 六道は、美神事務所に泊まってたりした。

「横島クンって、起きてからずっと相手しててくれたの?」

 六道ではなく横島と言う。

「そうみたいですね」

 六道の手には文庫本が握られており、先ほどからそれを読んでいる。
 美神の目には、六道はれーこの相手を全くしてないように映っていた。
 ぶっちゃげ、れーこは横島【で】遊んでいるし。

「横島さんって、子供と遊ぶの凄く上手なんですよ」

「私には無理よ・・・・子供って・・・。
 同じ絵本を幾度となく読まされるわ、少しもじっとしてないわ、やかましく、自己中で・・・・・。
 子供なんか・・・・・子供なんか・・・・・みんな滅んでしまうべきよ!!
 その方が世の中の為!!
 ましては、私の為!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・

「この子はあんた自身でしょうが・・・・・」

 御尤も。

「嫌、嫌なのよ!!
 子供のキンキン声!!
 聞きたくないのよ!!
 寝かすのも、ご飯を食べさせるのも、遊んでやるのも・・・・・全部嫌っ!!
 ママーーッ!!
 早く迎えに来てぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 ドカッ!!バン!!バン!!ドガッ!!

「・・・・・子供だ、この人は」

「まだ一晩しか預かってませんよ・・・・・」

「「・・・・・・・・」」

 横島とおキヌは、あきれている。
 六道は、美神を無視して読書に励んでいる。
 れーこは、「わたしって、こんなおんなになるの!?わがままだよ・・・・」と思ってたり思ってなかったり・・・・・・。

「!」

 ピポポピポピピポ・・・・

「ん!?
 何処にかけてるんですか?」

「親父よ、親父!!
 子供は親といるのが当たり前なのよ!!」

「・・・・・さっきも言いましたが、この子はあんた自身でしょう」

「お父さんは元気なんですか?」

「まあね。
 海外にいる事が多いけど。
 ・・・・・・・あっ、もしもし、東都大学動物行動学教室?
 美神公彦をお願いします。
 ・・・・・・・いえ、私、美神教授の娘です」

 電話が繋がったのか、相手に向って話し始める。
 一方横島たちは

「へー、大学の先生なのか。
 でも、なんかトゲトゲしてない・・・・?」

「なんか事情があるのかもしれませんね」

「きゃははっ〜♪」

「・・・・・・・」

 感想を述べる二人。
 れーこは、横島の顔で遊んでいる。
 六道は・・・・・・・読書中。

 ガチャ

 話が終わったのか、受話器を置いて横島たちに話しかける。

「つーわけで、東都大にいってくるわ!」

「つーわけで・・・・・って言われても全然わからないんですが、わかりました」

「とーとだい・・・・?
 知ってゆ!
 れーこのパパのかいじゃだよ!
 れーこも行く!」

「行ってもパパはいないわよ」

「でも行くの!」

『美神オーナー』

「ん?」

『昨夜結界内に侵入しようとした妖怪がいました。
 中に入れず引き上げたので、今まで報告してませんでしたが・・・・』

「妖怪?
 どんな奴?」

『残念ながらわかりません』

「・・・・・・・もしかして、子供の私を狙って?
 なら、子供の私を結界外に出す事はできないわね。
 狙いが私なら、逆に痛い目にあわせてあげるけど・・・・・・流石に子供の私じゃーね。
 念の為、ここにいて頂戴ね」

「えーーーーっ!!
 つまんない、おそと行きたい!!
 行きたい!!行きたい!!行きたい!!行きたい!!」

 自分に危険が迫ってる事をわかっていないのか、自分の意見を曲げられるのが嫌なだけなのか・・・・・・後者かな?

「あーーーーーーっもう!!
 いい加減にしなさい!!
 もし、妖怪が来たら如何するの?
 ここにはママはいないのよ!!
 あなた、どうやって自分の身を守る気!?」

 美神も美神で、自分の意見を曲げたくないようだ。
 ただし、れーこの心配もしてるが・・・・・。

「ママがいなくてもだいじょうぶだもん!!
 おにーちゃんがまもってくれるもん!!」

 ・・・・・・・?

「おにーちゃん?」

「うん!」

「コレ?」

 横島を指しながら、怪訝な顔をしている。
 つーか「横島がお兄ちゃん?何か変な物食わせたかな?」と、本気で思ってたりする。

「ちがうよ。
 おにーちゃんはこっち!!」

 横島の顔で遊んでいた手を放し、いまだ読書中の六道の膝の上に乗り上げる。

「ん?
 どうしたのかな、れーこちゃん?」

 本から目を放し、れーこの頭を撫でながら聞いてみる。
 因みに、本のタイトルは<まぶらほ〜メイドの巻〜>である。

「おにーちゃんが、れーこをまもってくれるよね(はあと)」

 ・・・・・・・・

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
 六道クンが、お兄ちゃん?」

「そうみたいですね」

 叫ぶ美神に、答える六道。

「けど何で?
 さっきまで六道クン、本読んでたでしょ。
 横島クンだったら、れーこと遊んでいたから可能性はあると思ったけど・・・・・」

「おにーちゃんは、ほんよんでたからあそべなかったの。
 ほんよんでるおにーちゃんのじゃましたらだめなの!!
 よこちまなら、いつでもあそんでいいの!!
 だから、おにーちゃんのかわりにあそんでたの!!」

 美神の問いには、本人が答えてくれた。
 つーか、横島の扱い悪いな。

「六道クン・・・・・・何したの?」

 頭を抑えつつ尋ねる。

「普通に絵本読んであげただけですよ」

「普通って?」

「膝の上に乗せて読んだだけですよ。
 蛍やひのめも、小さい頃は、よく膝の上に乗せて読んでましたよ。(偶に冥も・・・・)
 膝に乗せて読んであげると、喜んでくれたんですよ。(無論冥も・・・・)」

「で、ああなったわけね」

 と、何時の間にか六道の胸に擦り寄っているれーこを指す。
 恋する乙女・・・・・・ではないと思うが、大好きなお兄ちゃん♪に構ってもらって嬉しい、位だろう。

「俺って、小さい子に好かれやすいみたいなんですよ。
 蛍を保育園に送り迎えしてた時も、周りの子供達に結構好かれてたとおもいますよ。
 保護者の人達も「家の子供がいつも御迷惑かけて・・・」って言ってたし、保母さん達も「子供に好かれてるみたいですから、是非一緒に働きませんか?」って褒めてくれました」

「・・・・六道クン、子供達はいいとして、保護者と保母さん達の顔って、妙に赤くなかった?」

 何か思う所があるのだろう、確認してみる。

「まあ、顔が赤かった人は結構いましたけど、風邪が流行ってたんじゃないんですか?」

 ・・・・・・・・・・

(((鈍感?)))

(おにーちゃん(はあと))

 美神・横島・おキヌは、同時に同じ事を思ってしまった。
 れーこは、六道に頭を撫でられているので嬉しそうだ。
 って、(はあと)?

「ろ、六道クン。
 あなたって、鈍いって言われない?」

「ええ、美神さん達からよく言われますよ」

 六道の言う「美神さん」とは、未来(今は平行世界か・・・)の美神の事だ。

「それより、親父さんの所には行かないんですか?」

「・・・・あっ!!
 忘れる所だった。
 悪いんだけど、六道クンも留守番しててくれない。
 れーこを連れて行くわけにはいかないから」

 れーこの「おにーちゃん」発言から今まで、すっかり東都大に行く事を忘れていた美神。

「わかりました。
 って事で、お留守番してようね、れーこちゃん」

 優しくれーこに言い聞かせる。
 その顔を見た美神・おキヌ・れーこは、少し顔を赤く染めている。

(ちょっと、六道クンって・・・・・)

(えっ・・・あっ・・・その・・駄目です、私には横島さんが・・・・)

(おにーちゃん(はあと))

 カッコイイとは言えないが(一般的に見て上の下位かな・・・・まあ、普通より上って感じ)優しい笑顔は、破壊力抜群だ!!
 ただし、六道はその事に気がついていない。
 まあ、気がついているなら、鈍感とは言わないけどね。

(こっ、この野郎・・・・・!!
 何美神さんに色目使ってんだ!!
 ああっ!!
 あの体は俺んだ!!)

 横島には効いていない、逆に殺意がふつふつとわいているようだ。
 しかし、自分も成長すれば、同じ武器(優しい微笑み)が使用可能になる可能性がある事に気がついてない横島である。

「ん?
 顔が赤くなってますけど、風邪でもひいたんですか?
 昨晩は、雨も降ってましたし・・・・・濡れたまま寝ちゃ駄目ですよ」

 やはり、何もわかってはいなかった。

「ま、まあいいわ。
 じゃ、東都大に行ってくるわ。
 留守番よろしくね、おキヌちゃん。
 六道クンも、れーこの事お願いね。
 れーこも、いい子にしてなさいよ」

「いってらっしゃい、美神さん」

「ああ、任された」

「いってらっしゃーい!」

 おキヌ・六道・れーこの3人に別れを告げ、東都大に向け、出発する。
 ただし、

(美神さん、俺は?)

 横島の事をさっぱり忘れていた。

「何でじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
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